【テックブログ】「見えないもの」を見えるようにする技術 除雪支援から空港、建設、物流へ広がるガイダンスの可能性

公開日
更新日
  • X
  • Facebook
  • LinkedIn
【テックブログ】「見えないもの」を見えるようにする技術 除雪支援から空港、建設、物流へ広がるガイダンスの可能性

これまでのコラムでは、除雪現場向けに開発した当社の高精度ガイダンス技術「SRSS(Snow Removal Support System:除雪支援システム)」について、初期の実証実験から信頼される商用製品へと発展してきた歩みや、技術の仕組みをご紹介してきました。

SRSSは高精度3次元地図データとセンチメートル級の測位を組み合わせることで、雪に埋もれた路肩やマンホールなどの構造物を画面上で可視化します。これにより、周囲の状況を把握しにくい環境でも、除雪車のオペレーターが安全かつ正確に作業できるよう支援します。

では、この技術は除雪以外のどのような場面で役立つのでしょうか。

以下で紹介するアイデアには、すでに現場で実証が進んでいるものもあれば、当社のエンジニアが社内で議論しているだけで製品化や事業化の予定が決まっていない構想段階のものもあります。

あえて両方を紹介するのは、ここから私たち自身もまだ気付いていない新たな活用方法が生まれることこそ、このコラムにとって最も望ましい成果だと考えているからです。

除雪現場から見えてきたガイダンス技術の価値

除雪という分野に取り組む中で、私たちは、そこで得た知見の多くが雪のある環境に限らず、幅広い分野に当てはまることに気付きました。

特に重要なのは、次の2つの価値です。


(1) 「見えないもの」を見えるようにする

SRSSが必要とされるのは、雪によって路肩、マンホール、排水ますなどが隠れてしまうからです。しかし、重要なものが見えなくなる原因は雪だけではありません。

霧、豪雨、粉じん、暗闇によって周囲が見えにくくなる場合もあれば、ガス管や水道管のように、対象物そのものが地下に埋設されている場合もあります。つまり、そこに重要なものが存在しているにもかかわらず、それを知る必要がある人には見えないという問題です。

SRSSでは、対象物の位置をあらかじめ座標情報として整備し、車両やオペレーターのリアルタイム位置と組み合わせて表示します。このため、視界を遮っている原因や対象物の種類が変わっても、基本的なアプローチはそのまま適用できます。


(2) 完全自動化までのギャップを埋める

SRSSはオペレーターを置き換えるためではなく、支援するために設計されました。

その大きな理由は、除雪の完全自動化にはまだ多くの課題があるからです。除雪現場は視界が悪いことが多く、道路状況は常に変化し、雪に埋もれた危険物によって、十分に設計された自動システムであっても安定した認識が難しくなります。

そこでSRSSは、人の判断を前提としながらも、高精度な位置情報によって作業を支援します。熟練オペレーターの経験や勘だけに頼るのではなく、経験の浅いオペレーターでも必要な情報を把握しながら安全に作業できる環境を提供します。完全自動化を待つのではなく、現在の有人作業の安全性と正確性を高めるというアプローチです。

これらの考え方は、人の判断が引き続き重要でありながら、より高い精度や安全性が求められる多くの現場に応用できる可能性があります。

雪の先へ:すでに始まっている実証

ガイダンス技術の活用は、すでに除雪以外の領域でも始まっています。

当社グループ会社のDynamic Map Platform AxyzとJALグランドサービスは、2025年1月から新千歳空港において、航空機のプッシュバック作業を支援する実証実験を行っています。ここでは、SRSSと同じ高精度3次元地図データおよび測位技術を活用し、トーイングトラクターの走行を支援しています。

プッシュバックとは、出発する航空機が自力で走行を始める前に、トーイングトラクターで航空機を誘導路方向へ押し戻す作業です。空港では日常的に行われていますが、決して単純な作業ではありません。航空機や車両の安全を確保するため、常に正確な操作と関係者同士の緊密な連携が求められます。

雪や雨の中では、トラクターの運転者が予定経路を完全に見失うこともあります。また、リスクは単に何かへ衝突することだけではありません。その時点で周囲にほかの航空機や車両がいなくても、航空機を予定経路から外してしまうこと自体が重大な安全上の問題です。舗装面から外れたり、隣接する誘導路の安全を確保するための領域へ進入したりする可能性があるためです。

この実証では、道路上のSRSSと同じ仕組みを使い、あらかじめ構築した空港エリアの高精度3次元地図データ上に、トーイングトラクターのリアルタイム位置を重ねてタブレットへ表示します。

(左)空港内高精度3次元地図データイメージ (右)航空機のプッシュバック時のSRSS使用イメージ

一見すると、除雪と航空機のプッシュバックはまったく異なる作業に見えます。しかし両者には、「視界が悪い状況でも定められた経路上を正確に走行し続ける必要があり、経路から外れること自体が問題になる」という共通の課題があります。

空港分野では、プッシュバック支援以外にも、同じ技術基盤を活用したサービスの展開を検討しています。その一つが「Airport Guidance」で、地上支援車両を一元的に把握し、航空機の到着・出発に合わせて車両の移動を最適化するものです。もう一つは、高精度3次元地図データの勾配情報を利用し、車両の加速・減速を最適化するエコドライブです。

ただ、空港はその一例に過ぎません。高精度3次元データと測位技術を活用したガイダンスには、さらに多くの可能性があると考えています。

「見えないものを見えるようにする」発想から広がるアイデア

ここから先は、より構想段階のアイデアです。以下はいずれもSRSSと同じ基本手法、すなわち「隠れている対象物を事前にマッピングし、その地図を対象物に対するリアルタイム位置へ重ねる」という考え方を応用しています。基本原理は同じでも、その可能性は非常に広いことを示したいと思います。


(1) 建設機械:地下埋設物の位置を把握する

油圧ショベルやグレーダーのオペレーターは、地中に埋設されたガス管、水道管、光ファイバーケーブルなどを直接見ることはできません。掘削時の一度のミスが大きな事故や損失につながる可能性があります。

現在の主な対策として、埋設物の位置を事前に調査し、地面へスプレーでマーキングする方法などが用いられています。しかし、マーキングが薄れたり、土などに埋もれたり、掘削作業中に読み違えられたりする可能性があります。

埋設物の位置情報をデジタル化し、建設機械の現在位置に応じて画面上に表示できれば、オペレーターは掘る前から、いわばX線のように地下の状況を把握できます。また、作業の進行に合わせて位置関係を継続的に把握できるため、地面に描かれた表示だけに頼らずに作業できます。

電力・ガス・通信などの事業者や道路管理者では、すでに多くの地下設備記録のデジタル化が進められています。そのため、このアイデアは一見した印象ほど実現困難ではないかもしれません。もちろん実運用にはさまざまな課題がありますが、既存のデジタル資産を活用できる可能性があります。

地下埋設物の可視化イメージ


(2) 港湾・物流ヤード:常に自分の正確な位置を把握する

コンテナヤードや物流ヤードでは、多数の車両や作業員が広大な敷地内を移動し、コンテナの搬送や積み付けを行っています。

しかし、夜間や悪天候時には視界が悪くなるうえ、周囲には似たようなコンテナ列や設備が並ぶため、自車がヤード内のどの位置にいるのかを直感的に把握しにくい場合があります。

オペレーターが走行ルートやコンテナの搬送先を誤認すると、積み付け位置の間違いや余分な移動が発生し、結果としてヤード全体の作業効率を低下させる要因となります。

車両の現在位置や走行レーン、目的地をデジタル地図上に表示できれば、オペレーターは広い敷地内でも自車の位置を正確に把握できます。進路や搬送先の誤認を減らすことで、安全性と作業効率の向上が期待できます。

さらに、複数の車両やコンテナの位置をデジタル上で一元的に管理しやすくなり、物流オペレーション全体の可視化や最適化にも活用できるようになります。

近年の港湾・物流ヤードでは、自動搬送車両(AGV)や自動運転ヤードトラクターの導入、デジタルツインとの連携など、より高度な自動化への取り組みが進められています。こうしたシステムは車両が自らの位置を高精度に認識できることを前提としているため、高精度3次元地図データと高精度測位は、将来の自動化を支える重要な基盤技術でもあります。

物流ヤードにおけるガイダンス活用イメージ


(3) 災害復旧:災害によって見えなくなった地形を進む

災害によって道路や施設の形状が変化すると、既存の目印や基準点を確認できなくなり、復旧作業が難しくなる場合があります。

能登空港では2024年1月に発生した能登半島地震の復旧工事に伴い、一部の灯火が撤去されました。目印が少なく、除雪作業時に自車位置を把握しにくい環境となったことから、2025年冬期からSRSSが同空港の除雪作業を支援しています。

この考え方は、土砂災害などの復旧現場にも応用できます。

現在、復旧作業員は災害前の紙地図や記憶を頼りにしながら、もはや地図どおりではなくなった地形と、薄れた基準点を何度も照合して作業することがあります。災害前の道路や施設の位置情報を、がれきや土砂に覆われた現在の現場と直接重ねて表示できれば、重機オペレーターは目視できなくなった道路や構造物の位置を把握しながら作業できます。


(4) 農業:圃場の境界や危険箇所を把握する

作物が成長した畑や冠水した水田では、畦や用水路、圃場の境界が見えにくくなることがあります。

農業機械の走行位置がずれると、用水路への脱輪や畦の損傷、さらには作物を踏み荒らしてしまう原因になります。そのため、オペレーターが圃場内の境界や危険箇所を正確に把握することは、安全かつ効率的に作業するうえで重要です。

圃場の地形や境界、用水路などの位置を事前にデータ化し、農業機械の現在位置と合わせて表示できれば、目視しにくい環境でも走行位置を確認しながら作業できます。

「地図に変化を取り込む」発想から広がるアイデア

ここまで紹介してきたガイダンスは、高精度3次元地図データを活用し、道路や施設の形状といった比較的変化の少ない情報を表現するものです。

しかし、空港や港湾、物流ヤードなど、多数の車両や作業員が同じ空間で活動する現場では、自車の位置が分かるだけでは十分ではありません。工事による通行規制、車両や設備の移動、人や貨物の流れなど、刻々と変化する情報も必要です。

ガイダンスの次の段階では、「自分がどこにいるか」に加えて、「周囲で今何が起きているか」を関係者間で共有することが重要になります。


空港では、プッシュバックトラクターのほかにも、防除氷車、ベルトローダー、除雪車など、さまざまな車両が同じ空間で稼働しています。現在は各車両それぞれの運転者の判断と、周囲で作業する人々との無線連携に頼って運用しています。

それぞれの車両へ個別にガイダンスを導入することで、自車位置の把握は支援できますが、それだけでは不十分です。空港全体の状況を共有するためには、さらに広い仕組みが必要です。

そのためには、航空機や車両、設備などの位置情報を継続的に収集し、利用者や車両の役割に応じて必要な情報を配信する情報基盤が求められます。

この考え方は単なる構想ではありません。当社グループは国土交通省の事業のもとで、空港内のさまざまな情報を共有するプラットフォーム「VIPS(Various Information Port System)」を開発しています。

VIPSは、工事による閉鎖や進入禁止区域といった準静的・準動的情報に加え、カメラやセンサーで取得した航空機・車両のリアルタイム位置情報などの動的情報を収集します。これらの情報を高精度3次元地図データと組み合わせることで、自動運転車両と有人運転車両の双方が利用でき、かつ継続的に更新される空港全体の状況把握基盤を構築できます。

VIPSによる空港全体の状況共有のイメージ

これは地図上に固定された施設や経路を表示するだけではなく、現実世界で起きている変化を継続的に地図へ反映し、関係者間で共有する、いわば「ダイナミックマップ」の考え方です。

SRSSが「一台の車両を支援する技術」だとすれば、VIPSは「空港全体の状況を共有する基盤」と言えます。両者は別の取り組みではなく、高精度3次元データを活用して現場の状況把握を支援するという共通の考え方の延長線上にあります。

おわりに

私たちの出発点は、「雪によってオペレーターが見る必要のあるものが隠れてしまう」という除雪現場の具体的な課題でした。

その解決に取り組む中で、高精度3次元地図データと高精度測位を組み合わせたガイダンスは、重要な対象物を目視できない現場や、正確な走行位置の把握が求められるさまざまな現場に応用できることが分かってきました。

対象物の位置を事前に特定してマッピングし、リアルタイム位置と重ね合わせる。見えない対象がガス管であっても、コンテナヤードの境界であっても、地震のがれきであっても、水田の端であっても、基本的な構図は同じです。重要なものが見えない一方で、誰かがその周囲で安全に作業しなければなりません。

さらに、単一車両の位置を示すガイダンスから、周囲の車両や設備、規制などの変化を共有する仕組みへと発展させることで、個々の作業だけでなく、現場全体の安全性や効率性の向上にも貢献できる可能性があります。


このコラムで紹介したすべてが、すでに製品化されているわけでも、詳細に検討されているわけでもありません。しかし、SRSS自体も、現場の課題から生まれた一つのアイデアを、小規模な実証と試行錯誤を重ねながら形にしてきたものです。

私たちは今後も、除雪や空港で培った技術と現場での運用知見を生かし、高精度3次元データによって人の判断と作業を支える新たな活用領域を探求していきます。

本コラムをきっかけに、新たな活用方法や現場の課題を思い付かれた方がいれば、ぜひお聞かせください。

筆者

ソフトウェア技術部

M.W.

サービスに関するお問い合わせ、
またはIRメールの配信登録はこちらから
FOLLOW US
  • X
  • YouTube
  • Facebook
  • LinkedIn