【テックブログ】アプリケーションエンジニアが解説!除雪支援システム「SRSS」はどう生まれ、進化したのか

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【テックブログ】アプリケーションエンジニアが解説!除雪支援システム「SRSS」はどう生まれ、進化したのか

こんにちは、アプリケーション開発課のK.N.です。ダイナミックマッププラットフォームグループでは、「Modeling the Earth」というビジョンを掲げ、現実世界をデジタルで捉え社会課題の解決に貢献してきました。その具体的なサービスの一つが「高精度ガイダンス」です。

このサービスは、当社が自動運転向けに培った高精度3次元地図データの生成技術を応用したものであり、センチメートル級の精度を持つ位置情報と高精度3次元地図データを組み合わせ、道路と自身の位置関係をリアルタイムに正確に可視化する技術基盤です。

そして、この高精度ガイダンスを除雪現場向けにプロダクト化したものが、SRSS(Snow Removal Support System:除雪支援システム)です。SRSSは、雪に覆われて視認できなくなった路肩や障害物をデジタル上で可視化し、除雪作業を支援します。

SRSSは2023年度のサービス開始以降、出荷台数を大きく拡大し、2年間で約9倍へと成長しました。その背景にはどのような開発が行われてきたか、SRSSがPoC(概念実証)から始まり、製品として成熟してきた過程を、本コラムでは技術視点で紹介します。そこには、デジタル(サイバー)と現実世界(フィジカル)の相互作用による社会貢献という、私たちが目指すビジョンが体現されていることを感じ取っていただければ幸いです。

除雪業界が抱える課題

除雪作業においては、積雪状況や路肩、側溝、マンホールなどの地物の変化に応じてオペレーターが適切な認知・判断・操作を行う必要がありますが、その多くが経験や勘に依存しています。そして、近年は高齢化や担い手不足が進行しており、熟練者のノウハウを次世代へ十分に継承することが難しくなっています。その結果、持続可能な除雪体制の維持が困難になることが懸念されています。

除雪車両の運転や作業を自動化する取り組みも、各地で検討・実証が進められています。ただし、一般的な自動運転と比べると、除雪特有の環境条件が大きな課題となります。積雪や吹雪による視界不良、路面形状の変化、雪に埋もれた地物の存在などにより、周囲状況を安定して把握することが難しく、制御の前提となる環境認識自体が不確実になりやすいのが実情です。

こうした状況に対し、当社グループが注目したのが、高精度3次元地図データと高精度位置測位の組み合わせです。事前に取得した地物情報を持つ高精度3次元地図データと、リアルタイムな位置情報を重ね合わせることで、「雪の下にあるもの」を可視化し、作業者の認知と判断を支援します。

除雪支援システム「SRSS」の位置づけ

SRSSの出発点

SRSSの出発点は、自動運転向けに開発していた高精度3次元地図データ技術を、別の社会課題に転用できないかという技術的な検討でした。

道路構造を高精度にデジタル化できるのであれば、積雪下でも道路の状態を把握できるのではないか。この仮説を検証するため、2021年度に初期モデルを開発し、長野県飯山市で実際の除雪作業においてPoCを実施、動作検証や現場ニーズの確認を行いました。このPoCモデルでは、高精度位置情報端末を利用して取得した自己位置を高精度3次元地図データ上にプロットし、車両内のモニタでオペレーターに情報を表示するシステムとしました。

PoC段階におけるSRSS構成イメージ

オペレーターからのフィードバックは概ね好意的であり、本PoCを通して、道路形状や地物の可視化が除雪活動の確実性や安全性の向上に有効であることが確認できました。

その後、製品版の開発を念頭に、プロトタイプ版による実証を実施しました。しかし、実証を重ねるにつれて、実際の現場で継続的に活用していくためには、画面表示と利用環境の両面から乗り越えるべき技術的な課題があることが明らかになりました。


1. 走行挙動と画面表示のミスマッチ

車両の進行方向(ヘディング)は、GNSS受信機から出力される方位角から取得していました。プロトタイプ版では、この方位角は車両が実際に動いている方向を示す値であり、車両の向いている方向とは異なっていました。したがって、この方式は通常の前進走行では十分に機能しますが、除雪作業特有の走行パターンにおいては不整合が生じました。

  • 後進時の地図反転:除雪作業では切り返しや路肩寄せなどのために後進の動作が頻繁に発生しますが、その際に車両が動く方向は車両の前方と逆向きになります。そのため「向きを反転して前進した」と解釈され、画面上の地図が180度回転して表示されてしまいました。

  • 低速時の方位ふらつき:低速走行時はわずかな測位の揺らぎでも方位角が大きく変動してしまうため、直進中でも地図が左右に振動するように表示されました。除雪は低速走行の場面が多く、視認性を大きく損ねる要因となりました。



2.車両内環境と通信インフラの制約

実際の現場運用においては、画面表示の正確性以外にも次のような制約が明らかになりました。

  • 視認性と操作性:過酷な除雪環境下ではオペレーターは車両操作と安全確認に常に集中しているため、走行中に複雑な操作を行う余裕はなく、モニタの設置位置によっては自然な視線移動の範囲から外れてしまうこともありました。あわせて、画面を見続けられない局面では視覚以外の手段で情報を伝える仕組みも必要であることが浮かび上がりました。

  • 通信環境の不安定さ:補正情報の受信に基地局との通信を前提としていたため、山間部や冬季閉鎖道路では通信途絶によりシステムが動作しなくなる場面が生じました。

製品化に向けた技術的取り組み

実証で得られた知見や課題を踏まえ、製品版に向けて以下の取り組みを実施しました。オペレーターからのフィードバックを取り込みながら、それぞれに対して対策を講じていきました。


1.画面表示の信頼性向上

実証で顕在化した走行挙動と画面表示のミスマッチに対しては、車両が向いている方向そのものを取得できるように受信機やアンテナの構成を見直しました。これにより、車両が後進・静止している状態でも進行方向を正確に反映できるようになりました。

あわせて、低速走行時には方位角の急激な変化を抑制する仕組みを導入し、画面の揺れを軽減しました。これらの取り組みにより、実運用時の安全性や状況把握の信頼性を大きく向上することができました。


2.利用環境への対応

実証で明らかになった車両内環境と通信インフラの制約に対しては、ハードウェア面と測位構成の両面から対応を進めました。

オペレーターは車両操作や周囲の安全確認に常に注意を払っており、システム操作に多くの手間をかけることは現実的ではありません。そのため、画面を見られない場面でも情報を伝達できるように音声ガイダンスを追加しました。あわせて、必要以上の操作をオペレーターに求めないようなセットアップの簡略化、また、車両内への設置と過酷な除雪環境の両方に適合するハードウェアの選定を行いました。

また、実証で利用していたRTK測位では、補正情報を受信するために基地局と通信する必要があります。しかし、山間部や冬季閉鎖道路では通信環境が安定しないケースが多く、この測位手法だけでは対応できない場面がありました。

そこで、準天頂衛星「みちびき」の補正信号を直接受信するCLAS測位にも対応し、通信環境に依存しない構成を取り入れました。これにより、平地の生活道路から山岳路線まで、より幅広い現場で安定して利用できるようになりました。
なお、RTK測位とCLAS測位の特徴や利用シーンの違いについては、別のコラムにて解説する予定です。

こうした機能改善や課題対応を積み重ねた結果、作業効率の向上や工数の削減、事故リスクの低減といった効果が確認されるようになりました。技術的な改善が、現場の安全性向上と負担軽減に直結する形で表れています。

SRSSのシステム構成
SRSS製品イメージと使用イメージ

さまざまな活用シーンへの展開

技術的な課題解消と並行して、適用範囲そのものを広げる取り組みも進めました。除雪作業の形態は現場ごとに大きく異なり、特定の車両や用途に限定したシステムでは活用範囲が限られてしまうという課題があったためです。

異なる車両や作業形態に対応できるよう、アプリケーションの改修を行うとともに、受信機などの機材についても再設計を実施し、システム全体として対応範囲の拡大を図りました。2023年度には、生活道路の除雪で一般的なドーザタイプに加え、豪雪地帯の道路の道幅を広げたり、積雪を排雪したりするロータリー除雪車や、山間部の冬季閉鎖道路における位置の目印設置といった歩行作業への対応にも利用が開始されました。

このようにSRSSは、生活道路の除雪から山岳路線の維持管理作業まで、さまざまな除雪業務へと適用範囲を拡大してきました。こうした取り組みは対外的にも高く評価され、岩手県の主要観光道路「八幡平アスピーテライン」での導入事例に関する論文は、国土交通省東北地方整備局の主催で開催された「令和7年度東北地方整備局管内業務発表会」において最優秀賞を受賞しました。さらに、本事例は国土交通省所管「インフラDX大賞(優秀賞)」も受賞しており、その有効性が広く認められています。

2025年度には、能登空港における除雪業務にも初導入されました。これによりSRSSは、道路除雪に加え、広大な敷地と高い安全性が求められる空港除雪の現場でも活用されるようになりました。

このような適用範囲の拡大は、SRSSの根幹にある技術特性によるものです。SRSSは除雪支援システムとして生まれましたが、その本質は高精度ガイダンス技術です。高精度3次元データと位置情報を活用して作業者の認知・判断を支援する仕組みは、除雪以外の用途にも応用可能です。

その一例として、2025年度には新千歳空港において航空機のプッシュバック時のガイダンスに活用する実証実験も開始されました。除雪に限らず、SRSSの活用シーンは着実に広がっています。

航空機のプッシュバック時のSRSS使用イメージ

おわりに

SRSSは、高精度3次元地図データというサイバー空間の情報を、除雪というフィジカルな作業に結び付けることで価値を生み出してきました。この取り組みは、高精度3次元データ(サイバー)と除雪現場(フィジカル)の融合技術が地域課題を解決するという、技術の社会実装における一つの実践例です。

除雪現場では、高齢化や担い手不足という構造的な課題が深刻化しています。SRSSはこうした社会課題に対し、技術的なアプローチで応えてきました。除雪支援という特定分野で培った技術や知見は、空港業務をはじめ、将来的には建設現場などさまざまなフィジカル空間へ応用可能です。高精度ガイダンスという技術基盤を軸に、人手不足や安全性向上といったさまざまな社会課題の解決に貢献していくことが、私たちの目指す方向性です。

本コラムでは、SRSSがどのような開発過程を経て現在の形に至ったのかを紹介しました。次回は、測位精度や利用可能エリア拡大のための取り組みなど、技術的観点からSRSSの「実力」を詳しく解説する予定です。

筆者

アプリケーション開発課

K.N.

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