【テックブログ】 なぜ全国の除雪現場で活用されるのか?除雪支援システム「SRSS」を支える技術とは

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【テックブログ】 なぜ全国の除雪現場で活用されるのか?除雪支援システム「SRSS」を支える技術とは

雪に覆われた道路では、実際の道路・路肩・構造物の位置が正しく把握できるとは限りません。除雪作業ではこうした地物への接触が事故や設備損傷につながるため、オペレーターには高い経験や熟練の技術が求められてきました。

ダイナミックマッププラットフォームの除雪支援システム「SRSS(Snow Removal Support System)」は、路肩などの線や、雪の下に隠れたマンホール、横断側溝、橋梁ジョイントといった構造物の位置を、高精度3次元地図データとセンチメートル級の測位によりリアルタイムに可視化するサービスです。現在では全国15拠点以上で稼働し、道路除雪だけでなく空港除雪にも活用が広がっています。

前回のコラムではSRSSについて、PoC(概念実証)から製品化、そして多様な活用シーンに向けた展開へと至るまでの歩みを振り返りました。本コラムでは、開発に従事してきたエンジニアの視点から、このSRSSがなぜ全国の除雪現場で活用されているかを、3つの観点:①除雪向け高精度3次元地図データの特徴、②測位精度と利用可能エリアの拡大、③多様な現場への対応力 から解説します。あわせて、それらの技術が現場にもたらす業務効果についてもご紹介します。

除雪向け高精度3次元地図データの特徴

SRSSの根幹をなすのは、「地図が正確であること」と「自分の位置が正確であること」を掛け合わせ、地物との距離を正確に示すという考え方です。どちらか一方だけでは、除雪作業に必要な精度や安全性を実現することはできません。

SRSSでは、あらかじめ生成した高精度3次元地図データと、高精度衛星測位によるセンチメートル級の位置情報を重ね合わせることで、これを実現しています。

高精度3次元地図データの生成においては、ダイナミックマッププラットフォームグループの持つ生成技術が用いられています。自動運転向けのものと同様に、MMS(モービルマッピングシステム)を搭載した車両を走行し取得した点群データから、高精度3次元地図データを生成します。

ここで重要なのは、SRSSで用いる高精度3次元地図データは、自動運転向けの高精度3次元地図データとは求められる地物が異なるという点です。SRSSでは区画線や停止線といった一般的な路面標示に加え、道路上に存在するマンホールの蓋・横断側溝(グレーチング)・橋梁ジョイントなども図化しています。

これらの構造物は通常の走行時にはあまり意識されませんが、除雪作業においては大きな意味を持ちます。除雪車のブレードを引っかけてしまうと、構造物の破損やオペレーターの怪我といった事故に繋がってしまうためです。

そこで、積雪時には視認できない地物を事前に図化することで、その場所を画面上で把握することができるようになります。こうしてSRSS用の高精度3次元地図データを生成していきます。

SRSSでは、その道路や現場ごとに対象地物をカスタマイズすることができるのも特徴です。例えば、ある山間部の事例では道路脇の小屋が雪に埋まってしまうため、除雪時にその小屋に接触しないようにしたいという要望を受け、小屋を図化対象として高精度3次元地図データを生成したこともあります。他にも、除雪作業開始地点から100mごとにメモリ線を導入し、距離を表示することで進捗を可視化する、という事例もありました。

また、これは前回のコラムでも触れた部分ですが、オペレーターは作業中、常に周囲の状況を確認しながら安全に気を配るため、地物の存在を画面表示以外の方法と合わせてオペレーターに伝える必要がありました。そこで、道路の端や注意すべき地物に接近すると、画面表示だけでなく音声でも知らせることで、スムーズな情報伝達を可能にしています。

除雪向け高精度3次元地図データのイメージ

測位精度と利用可能エリアの拡大

「自分の位置の正確さ」を担うのが、高精度衛星測位です。こちらも前回のコラムからの続きになりますが、今回はより詳細に解説します。

SRSSでは、実際の地物との位置精度検証を実施しました。検証では、除雪時に接触リスクの高い各地物について、SRSSの画面を見ながら表示位置に車両を寄せて停車し、実際の位置との誤差を計測しました。最も精度が安定するFIX状態(※)において、誤差は最大で15cm程度、これはおよそ区画線の太さと同等であり、除雪作業で実用可能なレベルの正確性を表しています。

SRSSでは、この高い精度を実現するため、開発当初より以下の測位方式を利用しています。

  • ネットワーク型RTK(Real-Time Kinematic)測位(以下「RTK測位」)
  • CLAS(Centimeter Level Augmentation Service)によるPPP-RTK測位(以下「CLAS測位」)


PoC段階から採用したRTK測位は、観測点の衛星データに加え、国土地理院の電子基準点の観測データから補正情報を組み合わせて、センチメートル級の位置精度を得る方式です。

各地物との位置精度

※FIX/FLOATについて:本コラムでは、測位が高精度に安定した状態を「FIX(フィックス)」と表記します。これは測位計算が完了し、数cm級の精度が得られている状態を指します。これに至る途中段階は「FLOAT(フロート)」状態と呼ばれ、FIXよりも精度は劣ります。
SRSSでは、測位の安定状態を画面上の色の変化やメッセージで確認することができます。


高精度な測位を支えるRTK測位方式ですが、補正情報の受信にネットワーク接続を必要とするという制約があります。そのため、山間部や、冬季に閉鎖される道路など、ネットワーク接続が途絶えてしまう場所では利用できず、導入の限界がありました。そこでSRSSではRTK測位だけでなく、CLASを利用した測位にも対応しました。

CLAS測位は、準天頂衛星「みちびき」から配信される補正情報を利用する測位方式です。FIX状態が得られるまでの時間はRTK測位と比較すると長いですが、モバイル通信契約が不要で、通信不感地帯でもセンチメートル級の測位を可能にします。現場に応じて適切な測位方式を選択可能となり、SRSSの利用可能エリアは大きく拡大しました。

RTK測位とCLAS測位の比較

多様な除雪車両・作業形態への対応

除雪の現場では、対象となる道路や作業内容に応じて、実にさまざまな車両や手法が用いられます。冬季閉鎖道路の除雪では、まず道路面を探して歩きながら竹竿やスプレーでマーキングをする「位置出し作業」、マーキングを目印にバックホウやドーザで雪を崩す「切り崩し作業」、崩された雪をロータリー除雪車で道路わきに飛ばし道路幅を広げる「拡幅作業」などが行われます。それぞれの作業で利用する手法や車両が異なり、除雪車両には特有の動きがあるため、一つひとつに対してSRSSが導入可能かを検証する必要がありました。

位置出し作業の特徴は、車両ではなく歩行しながらの作業となることです。そこで、ヘルメットに装着するタイプの機材を選定し、作業員が背負いながら利用できるような構成としました。切り崩し作業には、バックホウ特有の回転運動への対応を実施しました。また、前進と後進を低速で繰り返すロータリー除雪車では、製品化以前の実証時の課題であった「後進時の地図反転」や「低速走行時の方位のふらつき」といった画面表示のミスマッチを改善したことで、適用が可能となることを確認しました。

それぞれの現場に合わせたカスタマイズを支えているのが、異なる車両・形態を同一のアーキテクチャで扱う設計思想です。全く別のシステムではなく共通の仕組みの上で、搭載する車両の寸法や位置情報端末・アンテナの取り付け位置を車両ごとに設定することで、機種やメーカーを問わず後付けで導入できます。また、車両や現場ごとに適切な機材・ハードウェアの配置や組み合わせを変更しつつ、ベースとなるアーキテクチャを統一することで、幅広い除雪形態に対応できるよう汎用化を進めていきました。

SRSSの対応車両・作業形態のバリエーション
(ヘルメット装着タイプ/バックホウ/ロータリー除雪車)

様々な地域への対応や改善の積み重ねにより、SRSSは北海道・東北・北陸を中心に、全国15拠点以上で稼働するシステムへと成長しました。現在では複数の種類の作業を支援しており、道路除雪に加え、令和7年度からは空港滑走路への導入も始まっています。

現場にもたらす業務効果

高い精度や汎用性を持つSRSSの導入により、除雪作業の現場では安全性、施工性の向上やコスト縮減など、様々な効果が確認されています。休日を含めて対応が必要だった作業を平日のみで完了できるようになったというケースもありました。

特筆すべきは技能継承への効果です。従来、冬季閉鎖道路の位置出し作業は経験や勘に頼っており、15〜20年の経験が必要とされていました。また、切り崩し作業や拡幅作業におけるオペレーターの育成にも課題がありました。SRSSでは、そのような熟練者の暗黙知を技術によってデジタルな情報に置き換え、オペレーターのサポートを実現しています。

利用事業者からは、SRSSの導入によりこれらの作業に必要な経験年数を短縮できるという期待の声をいただいています。地物の位置や道路幅を正確に把握できることで接触事故のリスクが減り、猛吹雪の中でも安全に作業を続けられるようになった、という評価をいただいています。若手オペレーターでも安全に作業できる環境が整いつつあるのです。

まさに「デジタル化によってプロセスや方法そのものを変え、業務効果を生み出す」という、DXの本質的な実現例といえます。

おわりに

本コラムでは、除雪支援システムSRSSの実力を、地図の特徴・測位精度・多様な現場への対応力という3つの観点から解説してきました。

高精度3次元地図データとRTK測位/CLAS測位を組み合わせることで、センチメートル単位の地物精度と広範囲の利用可能エリアを両立し、ヘルメット型から大型除雪車、さらには空港滑走路まで、共通のアーキテクチャで多様な現場を支える、これがSRSSの技術的な強みです。そしてこれらの技術は、工期短縮・安全性向上・技能継承という具体的な効果を現場にもたらしています。

これらの取り組みは現場の作業や課題を深く理解し、ニーズを徹底的に追求した上で、実証を繰り返しながら磨き上げてきたものです。私たちは今後、除雪支援で培ったこの技術基盤を、空港業務や建設機械、その他の作業現場にも応用し、「サイバーとフィジカルの相互作用による社会貢献」をさらに広げていきたいと考えています。

筆者

アプリケーション開発課

K.N.

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