普段、私たちは道路を「高速道路」「国道」「県道」「生活道路」といった言葉で何気なく呼んでいます。しかし、世界規模で道路データを整備・活用する場合、それぞれの国の道路制度だけでは道路の役割を比較しづらくなります。
ダイナミックマッププラットフォームは、世界26か国以上で高精度3次元地図データを整備しています。では、その対象にはどのような道路が含まれているのでしょうか。その理解に役立つのが、OpenStreetMap(通称OSM)で広く使われている「道路クラス」という考え方です。
本コラムでは、この「道路クラス」と高精度3次元地図データの関係について、データ技術部 部長のA.T.が解説します。
道路にも“世界共通の見方”がある
OSMは、誰でも編集に参加できるオープンな地図プロジェクトです。世界中で利用されており、GISやシミュレーションなどさまざまな場面で活用されています。
OSMでは、道路の重要度や役割に応じて、motorway、trunk、primary、secondary、tertiary、residential、service などのタグで道路を分類します。
たとえば motorway は、日本でいう高速道路や自動車専用道路に近い道路です。米国であれば Interstate Highway や Freeway をイメージすると分かりやすいでしょう。trunk は広域移動で重要な幹線道路、primary は都市間をつなぐ主要道路、secondary は地域の主要道路、tertiary は生活圏の中で比較的重要な道路、というイメージです。

OSMの道路クラスは“共通言語”
ただし、OSMの道路クラスは「道路の見た目」だけで決まるものではありません。
国や地域によって道路制度や整備水準は異なります。そのため、同じ primary であっても、日本、米国、欧州では実際の道路の姿が異なる場合があります。
つまりOSMの道路クラスは、世界中の道路をまったく同じ基準で切り分けるものというより、国や地域ごとの道路を比較しやすくするための“共通言語”のようなものです。この共通言語を用いることで、「どのような道路を対象にデータが整備されているのか」を国や地域をまたいで理解しやすくなります。
人が見る地図と、車両が使う地図
では、高精度3次元地図データでは、この道路クラスがどのように関係するのでしょうか。
カーナビやスマートフォンの地図は、人が見ることを主な目的とした地図です。目的地までの道順、所要時間、曲がる場所などが分かれば、日常の移動には十分便利です。
一方、高精度3次元地図データは自動運転や先進運転支援システムなど、車両や各種システムが使う地図です。道路の形だけでなく、車線、停止線、標識、信号機、路面標示、道路端など、自動運転や先進運転支援システムが判断に使う情報が、センチメートル級の精度で収録されます。
こうした情報は、車両が周囲を認識する際の重要な手掛かりとなります。

高精度3次元地図データは“道路の予備知識”
人間なら、交差点の手前で「この車線は右折専用だな」「この先に停止線があるな」と、周囲を見ながら判断できます。しかし車両システムにとっては、雨や夜間、逆光、前方車両による遮蔽などにより、センサーだけでは読み取りづらい場面があります。
そこで高精度3次元地図データがあると、車両はあらかじめ道路構造や地物の位置を知ることができます。いわば、初めて行く場所でも事前に詳細な下見をしているようなものです。
この“道路の予備知識”があることで、車両はより安定した判断を行いやすくなります。
グローバルに広がるダイナミックマッププラットフォームの高精度3次元地図データ
ダイナミックマッププラットフォームでは、この高精度3次元地図データをグローバル規模で整備しています。道路クラスの考え方で見ると、どのような道路を対象に整備しているのかを理解しやすくなります。
公開情報では、26か国以上を対象に、国内約33,000km、北米約1,560,000km、欧州約255,000km、韓国約20,000kmのデータを整備しており、中東でも整備を進めています。
「全世界で約180万km」と聞くと大きすぎて実感しづらいかもしれません。そこで北米を例に見ると、約156万kmという規模は、高速道路だけでなく、都市間を結ぶ幹線道路や地域の主要道路まで広く含むネットワークです。
OSMの道路クラスで表現すると、 motorway、trunk、primary、secondary といった上位の道路クラスを中心に、広大な道路ネットワークを整備しています。これは日本でいえば、高速道路や自動車専用道路に加え、幹線国道や主要地方道など、都市間移動や生活圏を支える道路までカバーしているイメージです。
実際の運転支援や自動運転は、高速道路の上だけで完結するものではありません。高速道路を降りたあとも、物流拠点、商業施設、生活圏の道路へと移動は続きます。そのため、幹線道路や地域の主要道路まで整備範囲を広げることが重要になります。
本サイトの「自動運転向けデータ」ページでは、高精度3次元地図データの特徴や活用例に加えて、「保有エリア」も確認できます。地図上で整備地域を見ることで、数字だけでは伝わりにくいダイナミックマッププラットフォームの取り組みの広がりを直感的に把握できます。

OSM道路クラスで見ることのメリット
ダイナミックマッププラットフォームの高精度3次元地図データは、OSMそのものではありません。OSMは主に道路のつながりや道路種別を表現する2次元の地図データであるのに対し、高精度3次元地図データは車両やシステムが使う高精度な空間データです。
一方で、OSMの道路クラスに照らして整備範囲を説明できることにはメリットがあります。motorway、trunk、primary、secondary といった道路階層で整理することで、どのレベルの道路まで高精度3次元地図データが整備されているのかを、国や地域をまたいで理解しやすくなります。
また、OSMの考え方は多くのGISソフトウェアや地図可視化、シミュレーション環境でもなじみがあります。そのため、高精度3次元地図データを自動運転だけでなく、道路管理、物流、防災、都市計画、ロボティクスやフィジカルAIに関連するシミュレーションなどと組み合わせて活用する際にも、整備範囲を説明しやすくなります。
地図は“見るもの”から“使うもの”へ
高精度3次元地図データの価値は、単に道路をたくさん持っていることだけではありません。現実世界の道路を、車両やシステムが判断に使えるデータとして再現している点にあります。
道路を単なる視覚的情報として扱うのではなく、車線、停止線、標識、信号機、路面標示、道路端などの属性を持たせ、社会で活用できる情報へ変えているのです。
道路クラスを知ると、高精度3次元地図データの整備範囲の見え方が少し変わります。高速道路だけでなく、幹線道路や地域の主要道路まで広がるデータ整備は、自動運転やADASをより身近な技術へ近づけるための重要な基盤です。
普段何気なく走っている道路にも、世界共通の分類があり、その上に高精度な3次元地図データが重ねられています。道路を知ることは、未来のモビリティを知ること。高精度3次元地図データは、その未来を支える見えないインフラなのです。
