高精度3次元地図データというと、道路や白線、信号機などの位置を非常に高い精度で記録した地図をイメージする方が多いと思います。実際に、位置や形状といった目に見える情報が高精度に記録されています。
しかし、高精度3次元地図データが持つ情報は、地物の位置や形状だけではありません。信号機と停止線の関係や、車線同士のつながりなど、道路を走行するうえで必要となる「意味」もデータとして記録されています。
今回は、高精度3次元地図データが持つ意味情報について解説します。
信号機があるだけでは不十分
例えば、交差点に信号機と停止線がある場合を考えてみましょう。
地図上に信号機と停止線の位置が正確に登録されていても、それだけでは自動運転車は、どの信号に従い、どこで停止すればよいのかを判断できません。
実際の交差点には、直進用、右折用、左折用など、複数の信号機が設置されている場合があります。隣の車線や交差する道路に向けられた信号機も、同じ視野の中に入ってきます。
そのため高精度3次元地図データでは、「この信号機は、この車線を走る車両が確認するもの」「赤信号の場合は、この停止線の手前で止まる」といった関係をデータとして持たせます。
地物を単独で登録するのではなく、地物同士を関連付けることで、初めて交通ルールとして利用できる情報になるのです。
車線にも意味がある
車線についても同様です。人間は道路を見れば、白線の間を走行し、交差点の先でどの車線へ進めばよいかを周囲の状況から判断できます。しかし、コンピューターにとって白線は、単なる線状のデータにすぎません。
そこで高精度3次元地図データでは、車線の左右の境界だけでなく、進行方向、前後の接続関係、隣接する車線、車線変更の可否などを登録します。
例えば、ある車線から交差点を直進した場合、交差点の先にあるどの車線へつながるのかを示します。また、実線で区切られているため車線変更できないのか、破線であり変更可能なのかといった情報も重要です。
このような情報があることで、自動運転システムは道路を線や点の集まりではなく、「どこを、どの方向へ、どのルールで走行できるか」という意味を持った道路ネットワークとして理解できます。

データ形式によって表現方法は異なる
こうした意味情報の考え方は共通していますが、その表現方法はデータ形式によって異なります。
例えば、自動運転向けの地図形式であるLanelet2では、車線を表すデータと信号機、停止線、標識などの交通規制情報を関連付けます。
一方、シミュレーションなどで使用されるOpenDRIVEでは、道路の基準となる線を中心に、車線の形状や接続関係、信号機、標識などを体系的に表現します。
また、利用するシステムや事業者によっては、独自の属性や情報を追加することもあります。
「道路上の地物に役割を与え、地物同士の関係をコンピューターが理解できる形にする」という考え方は共通しているのですが、データ形式によってその表現方法は異なっているのです。
AI時代にも残る高精度3次元地図データの価値
近年は、カメラやLiDARなどのセンサー技術に加え、AIによる認識技術も急速に進歩しています。将来的には、車両が周囲の道路状況をリアルタイムで認識し、高精度3次元地図データへの依存度が下がる可能性もあります。
しかし、センサーと高精度3次元地図データは、どちらか一方だけを使用するものではありません。
センサーは「いま何が見えているか」を捉えることが得意です。一方、高精度3次元地図データは「本来そこに何があり、どのような関係やルールがあるか」という事前情報を提供します。
例えばAIが信号機を認識できたとしても、その信号機がどの車線に対応しているのか、どの停止線と結び付いているのかといった意味情報まで安定して理解することは容易ではありません。こうした関係性を構造化して提供できることは、高精度3次元地図データの重要な役割の一つです。

また、雨や逆光、大型車による遮蔽などによって、信号機や停止線を一時的に認識しにくい場合でも、高精度3次元地図データの情報を組み合わせることで、判断を補うことができます。
さらに、高精度3次元地図データの意味情報は、AIの学習や認識結果の検証にも活用できます。どこが車線で、どの信号機がどの停止線に対応しているかという情報が正しく整理されているので、AIが道路の構造や交通ルールを学ぶための教材としても利用できます。
高精度3次元地図データは、自動運転車が道路を正しく理解するための情報基盤であると同時に、AIが道路の意味を学ぶための重要な基礎データでもあるのです。
普段は意識することのない「信号機と停止線の関係」や「車線同士のつながり」といった情報も、自動運転にとっては欠かせません。道路に存在するさまざまな意味をデータとして表現する高精度3次元地図データは、これからのモビリティ社会を支える縁の下の力持ちとして、今後も重要な役割を担っていくでしょう。
