空間情報を扱っていると、「同じ場所を示しているはずなのにデータが重ならない」「システム間で位置が合わない」といったケースに遭遇することがあります。実は、その原因の多くは「測地系」と「座標系」にあります。
測地系や座標系について解説した記事は数多くありますが、実際の現場では、
- 結局どの座標系を使えばよいのか
- なぜデータがずれるのか
- どうしてシステム同士で位置が合わないのか
といった疑問が少なくありません。
ダイナミックマッププラットフォームでも、高精度3次元データの整備や活用を通じて、日々さまざまな測地系・座標系を扱っています。今回は実際の現場で起きている事例を交えながら、 測地系・座標系の違いについてテクノロジーユニットのJ.Y.が解説します。
「測地系」と「座標系」は別モノ
まずは、この2つの違いを整理しましょう。
測地系とは、「地球上の位置を決めるための基準」です。一方で、座標系とは、「その位置をどのような数値で表現するか」を定めるものです。
例えば、
<測地系の例>
- 日本測地系2000(JGD2000)
- 日本測地系2011(JGD2011)
- WGS84
<座標系の例>
- 緯度・経度
- UTM座標系
- 平面直角座標系
- ローカル座標系
よくある間違いとして、「このデータは緯度経度座標です」などと言ってしまうケースがあります。しかし、それだけでは「どの測地系の緯度経度なのか」が分かりません。空間情報では、測地系と座標系をセットで扱うことが重要です。例えば、「JGD2011の緯度経度」のように、両方がそろって初めて位置を正しく表現できます。
また、空間情報にあまりなじみのない方は、「日本測地系2011は日本だけの測地系で、世界測地系とは別のものなのでは?」と思われるかもしれません。確かに名前だけを見るとそのように感じますが、日本測地系2011(JGD2011)は日本で利用される測地系でありながら、国際的な基準と整合するよう定義されています。このため、日本測地系という名称でありながら、世界測地系の1つです。
名前から受ける印象と実際の位置付けにギャップがあるため、初めて学ぶ方が戸惑いやすいポイントのひとつです。

高精度3次元地図データでは何を使っているのか
では、自動運転や高精度3次元地図データの世界では、どのような座標系を使っているのでしょうか。
一般車両の自動運転は広い範囲を移動します。そのため、エリアごとに座標系が分かれる平面直角座標系よりも、広域で統一的に扱える緯度経度を利用するケースが多くあります。また、GNSS(全球測位衛星システム)による位置推定も緯度経度を基準としているため、変換処理を最小限にできるという利点があります。
一方で、工場内を移動するロボットのように、地球上の絶対位置よりも施設内での相対的な位置関係が重要な場合には、任意の地点を原点とするローカル直交座標系を用いたりします。
また、当社の3Dmapspocket®のようなビューアやSRSSのような屋外のガイダンスシステムでは、シームレスな表示や高速な処理を実現するため、WGS84 を基準とした緯度経度系を採用することが多くあります。
このように、どの座標系が優れているということはなく、用途によって最適な座標系は異なります。高精度3次元データの整備からビューアやガイダンスシステムでの活用まで、利用目的に応じて適切な座標系を選択し、必要に応じて相互に変換しながら利用しています。
こうした座標系の選定を適切に行うことは、私たち空間情報エンジニアに求められる重要な役割のひとつだと考えています。
空港には空港の座標系がある
ローカル直交座標系の例として、空港についてもご紹介します。
空港では、滑走路や誘導路を扱いやすくするために、空港独自のローカル座標系が利用されています。空港には必ず「標点」というポイントが滑走路の中心付近に設置されています。この標点を基準として座標軸が設定されており、空港内の位置を効率的に管理できます。
一方、この座標系は一般的な地図で使われる緯度・経度などの値とは異なるため、他の地図データやGNSSの位置情報と組み合わせる際には変換が必要になります。
空港関連のデータを地図上で重ね合わせた際に、全く違う場所に表示されてしまうことがあります。空港の空間情報を取り扱う際の、いわば「あるある」の現象です。
データが重ならない原因の多くは、データそのものの誤りではなく、測地系や座標系の違いにあります。

世界にはたくさんの測地系・座標系がある
ここまで測地系と座標系の話をしてきましたが、実際にはその種類は非常に多く存在します。
日本の公共測量(官公庁で発行するような地図)では、基本的に日本測地系が利用されています。また、縮尺の大きい地図などには平面直角座標系も用いられています。
平面直角座標系は、地球という球体を平面上で扱いやすく表現するための「投影法」を利用した座標系です。メルカトル図法や正距方位図法なども投影法の一種で、中学校の地理で学んだ記憶がある方も多いかもしれません。
座標系は大きく、
- 緯度・経度で位置を表現する「地理座標系」
- 平面上のX・Y座標で位置を表現する「投影座標系」
に分けられます。平面直角座標系も投影座標系の一種です。
空間情報の世界では、
- どの測地系を使うか
- どの座標系で表現するか
- どの投影法を使うか
を組み合わせて位置情報を扱っています。
日本にJGD2011や平面直角座標系があるように、世界各国にもその国独自の測地系・座標系があります。ソフトウェアで利用できる座標系だけでも数多く存在し、測地系との組み合わせもさまざまです。空間情報を扱う際には、こうした違いを意識することが欠かせません。
空間情報エンジニアが最も困るデータ
ここまでご紹介してきたように、測地系や座標系にはさまざまな種類があります。その一方で、それらが明確になっていないデータは、空間情報を扱う上で思わぬトラブルの原因になります。
私たち空間情報エンジニアが最も困るのは、「位置が間違っているデータ」ではありません。最も困るのは、「どの測地系・座標系で作られたのか分からないデータ」です。
無数の組み合わせから、正解を紐解くのは容易ではありません。私自身も過去に、どこの地域のデータなのか分からない、使用している座標系もわからない、というデータを受け取ったことがあります。地形の特徴や座標値などを手掛かりに調査した結果、最終的には中央アジアの山脈のふもとのデータであることを突き止めることができましたが、これはまさに「日が暮れる」作業でした。
空間情報の品質を支えているのは、測量技術やデータ整備技術だけではありません。測地系や座標系を正しく管理し、関係者間で共有することも、同じくらい重要なのです。
おわりに
測地系や座標系は専門的なテーマに見えますが、位置情報を扱うあらゆるシステムの基礎となる考え方です。
自動運転やガイダンスシステム、高精度3次元地図データや点群データ、AI学習データなど、私たちが扱うあらゆる空間情報は、こうした位置情報の基盤の上に成り立っています。
当社でも、高精度3次元地図データや点群データの整備・活用を通じて、日々さまざまな測地系・座標系を扱っています。その精度や品質を支えているのも、適切な測地系・座標系の管理です。
今回ご紹介したように、位置情報を扱う際には「どの測地系を使うのか」「どの座標系で表現するのか」を意識することが重要です。普段あまり意識されることのない仕組みですが、空間情報を支える大切な基盤となっています。
