【テックブログ/マップエンジニアの仕事録 #1】道路は「単なる線」ではない― 特殊な道路と高精度3次元地図データの使命

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【テックブログ/マップエンジニアの仕事録 #1】道路は「単なる線」ではない― 特殊な道路と高精度3次元地図データの使命

こんにちは、データ技術部のK.H.です。

私たちが日常的にスマートフォンで使っている地図アプリやカーナビの地図。画面を見ると、道路はすっきりとした「1本の線」で表現されています。人間はこれを見て「ここで右折だな」「細い道に入るな」と自然に解釈して運転できます。

しかし、これから到来する自動運転社会では、従来の地図では対応しきれません。車載システムという「機械」が人間の代わりに運転するためには、道路を単なる線ではなく、車線(レーン)の幅、縁石の高さ、どこで曲がるべきかという細かいルールまでを1センチ単位で記録した、立体的な3D空間のデジタルデータが必要になります。これが「高精度3次元地図データ」です。

自動運転のインフラとして世界中から注目されている高精度3次元地図データですが、実はその製造現場では、日本の複雑な道路形状と交通ルールを自動運転システムやAIが正しく理解できる「意味のあるデータ」へと翻訳すべく、マップエンジニアたちが日々取り組んでいます。
そのエンジニアによるコラムを全5回にわたるシリーズとしてお届けしたいと思いますが、今回はその第1話として、地図作りのスタートラインである「道路の複雑さ」という高い壁についてご紹介します。

2次元の限界と、立体交差の壁

地図データを作る際、エンジニアとしてはデータをできるだけ「平面(2次元)」で処理したいのが本音です。平面であれば、道路同士がどこでどう繋がっているのかをシンプルなデジタルデータとして効率よく管理できるからです。

しかし、現実の日本の道路はそれを許してくれません。その代表例が、東京都渋谷区にある「大橋JCT(ジャンクション)」です。

JCTとは、高速道路同士を繋ぐための立体交差施設のことですが、大橋JCTは首都高速道路の複数の路線が網の目のように複雑に絡み合っています。道路が何層にも重なり合っているため、上空から見た平面(2次元)の地図だけで処理しようとすると、システムは「自分が今、何階部分の道路を走っているのか」が分からなくなり、パニックを起こしてしまいます。

そのため、高精度3次元地図データでは道路の「高さ(高低差)」や「どの車線がどのスロープへ接続しているのか」を完全に立体(3D)で管理する、特別な設計が施されています。

大橋JCTの高精度3次元地図データ

見た目だけではデータ化できない「特殊なルール」

道路のカタチが複雑なだけなら、形通りに3D化すれば解決するかもしれません。しかし、本当にエンジニアを悩ませるのは、その形に紐づく「目に見えない交通ルール」です。

近年、日本でも導入が進んでいる「ラウンドアバウト(環状交差点)」という円形の交差点があります。信号機がなく、時計回りに進むルールですが、ここを自動運転車が安全に通過するためには、「円を走っている車が優先」「そこへ合流する時は一時停止ではないが譲る」といった、その国や地域の運用ルールそのものを地図データの中に「意味」として埋め込まなければなりません。

さらに難解なのが信号機です。「交差点の脇に信号機がある」という位置情報だけでは、自動運転車は走れません。

「この信号機は、3つある車線のうちの『右折レーン』だけに適用される矢印信号である」
「時間帯によってルールが変わる『時差式信号』である」
「特定の車線だけを走る『バス専用信号』である」

このように、見た目の形状だけでなく「その信号がどの車線の、どの進路に対して命令を出しているのか」という、交通の仕組みそのものをエンジニアが解釈し、データとして正しく翻訳していく必要があるのです。

ラウンドアバウトのイメージ※1
いろいろな信号機の例※2

エンジニアが込めた「意味」が、システムやAIの「理解」を支える

最先端の自動運転向け地図制作というと、すべてAIが自動で計算しているようなスマートな印象を持たれるかもしれませんが、実際はそうもいきません。複数の交差点が極端に近く、どこからどこまでを「1つの交差点」としてシステムに認識させるべきかといった、明確な正解のないグレーゾーンに直面したとき、最後に頼るべきは人間のエンジニアの判断です。

「もしここで法律通りのデータにすると、実際の車流とズレて急ブレーキがかかるのではないか?」
「地元のドライバーが普段行っている『通例』をどうデータに落とし込むか?」

エンジニアたちは日々、システムが安全に右左折できる姿を脳内でシミュレーションしながら、緻密で粘り強い地図設計を行っています。

こうして一つひとつ意味付けされた地図データは、単なる「道路の形」を超えた、交通ルールや走行コンテキストを含む構造化情報として、自動運転システムやAIが「世界を理解する」ための土台になります。「その道路で何が起きるか」「何を守るべきか」までを含んだデータだからこそ、AIによる判断や学習にも活用できるのです。

この圧倒的なこだわりとノウハウこそが、簡単には真似できない、日本における高精度3次元地図データ製造の最大の「付加価値」であり「技術資産」なのです。

次回予告

車が安全に走るためのルールを持った3D空間。それを寸分の狂いもなくデジタル化する戦いは、まず街中を特殊なレーザーで丸ごとコピーする「計測車」の出動から始まります。しかし、そこには「お天気待ち」や「トンネルでの迷子」といった、さらなる試練が待っています。

次回、第2回:計測編「自動運転の未来を映す『目』の作り方 —— MMS計測の現場と隠れた苦労(仮)」。お楽しみに。


(※1) 出所/写真:Pexels
(※2) 出所/写真:photoAC

筆者

データ技術部

K.H.

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