自動運転が物流をどう変える?業界キーパーソンが描く未来とは

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自動運転が物流をどう変える?業界キーパーソンが描く未来とは

―――物流の2024年問題が社会的な関心を集めて久しい中、今日も私たちの手元にはいつも通り荷物は届き、コンビニ、スーパーにはたくさんの商品が当然のように陳列されています。一方で、私たちの便利な生活を支える物流業界が抱える課題は色濃く残っているところです。ダイナミックマッププラットフォームは、自動運転分野からこの課題に向き合っていきます―――

今回は「自動運転×物流の未来」をテーマに、外資系大手コンサルティングファームのローランド・ベルガーのパートナーで物流業界の第一人者である小野塚 征志 氏と、当社代表取締役社長CEO・吉村 修一が2025年6月に対談した模様の一部を抜粋してお届けします。

輸送量は微減傾向にあるもドライバーの減少により物流クライシスが発生

吉村)2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会の構成員を務められている小野塚さんと、国内の自動運転×物流の未来・可能性についてぜひディスカッションさせてもらえたらと思います。


小野塚)ありがとうございます。よろしくお願いします。


吉村)早速ですが、2024年問題というワードがメディアを賑わせて久しいですが、現状がどうなっているのか、物流業界のトレンドなどをお聞かせください。


小野塚)「第1回2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会」の資料(図1)をご覧ください。

(図1)「第1回2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会」資料

小野塚)この表には、これまでに政府が取り組んできた物流問題と、その効果の試算および実績がまとめてあります。政府は荷待ち・荷役時間※1の削減や積載効率向上、モーダルシフト※2など、様々な問題に対する政策を実施してきました。この表をかみ砕いていくと、荷待ち・荷役時間は想定より減らず、一方で積載効率は想定以上に上がっています。またモーダルシフトは想定以上に進み、その一方で再配達率は想定ほど減らなかった。積載効率の改善やモーダルシフトが想定より進捗した一方で、荷待ち・荷役時間や再配達率の削減に関しては思うような結果が出ませんでした。その他の取組は、高速道路の速度規制が緩和されたことでトラックによる輸送力が増加したことを示しています。貨物輸送量の変化等については、試算の時点では2024年の輸送量はコロナ禍以前の2019年と同等になると予想していたものの、実際はそこまで戻らなかったということです。


吉村)なるほど。課題を因数分解するとこうなっているんですね。


小野塚)そもそも日本国内の輸送量は、長い目で見ると実は減っています。人口の減少や無駄な輸送の削減による効率化が進んだことで、輸送量自体は右肩下がりなんです。でもそれ以上にドライバーが減っているから、物流クライシスが起こっているというのが実情ですね。


※1 荷待ち・荷役時間: トラックドライバーが荷物の積み下ろしや発送元・配送先での待機に費やす時間
※2 モーダルシフト: トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を、大量輸送が可能で環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換すること

荷待ち・荷役時間を減らすには業界の特性を見極めるのがポイント

吉村)現状について理解できました。挙げられた課題の中でも特に荷待ち・荷役時間の削減は、当社が進めている物流センター内での自動運転導入が解決の一助になると認識しています。現状、実績が+0.0というのは、一見施策がなかったかのようにも見えてしまいますね。

小野塚)施策がゼロだったわけではなく、結果としてそうだったという数値になっています。政府は、2023年6月に発表した「物流革新に向けた政策パッケージ」で、例えば日本自動車工業会(自工会)など、いろんな業界団体に自主行動計画を作ってくださいと言ったんです。様々な課題を挙げつつ、特に荷待ち・荷役時間の削減と積載効率の向上の2つに取り組んでほしいと。それで、各業界団体が計画を掲げて取り組んだはずなんですが、結果として積載効率は上がったけれども、荷待ち・荷役時間は減らなかった。


吉村)原因として何が考えられるんでしょうか?


小野塚)1つ悩ましいのは、荷待ち・荷役時間にしても、積載効率にしても、すべてアンケート調査をベースにしているんです。現状、待ち時間や積載効率をデジタルに正しく把握することは難しいので…。また関係者全員にアンケートをとることも難しく、あくまでアンケートベースのサンプル調査であるということは、前提としてご理解いただきたいです。

原因についてお話しすると、例えばコンビニのトラックであれば、店の前に止まった後、速やかに商品を運び込んでいらっしゃいますよね。コンビニのような業界だと元々しっかり管理されているんですが、逆に待つところはすごい待つんですよ。3~4時間待たせることもあったりする。要は、もう明らかに長時間待たせている業界が短くなってくれないと、実は何の意味もなくて。そもそも最初からきちんと管理されているところの方がバース予約システムなどの導入も進んでいて、管理が追い付いていないところはそういった対策の必要性への感度も低い、というのはあると思います。


吉村)2030年の試算+7.5に貢献できるポイントとして期待されるのは、そういった待ち時間が長い業界において短くしてほしいというところでしょうか?


小野塚)そうですね。中には、荷物の取り扱いが難しく、どうしても荷役時間が長くなってしまうものもあります。ただそうではない場合が圧倒的に多い。合理的な理由なくドライバーを待たせているところを短くするというのはポイントになると思います。

吉村)私、実は三井物産時代に物流に7年間携わっていて、羽田空港物流ターミナルのPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)をやっていました。当時、国際ターミナルに荷物を取りに来るトラックが環状八号線で渋滞を起こして問題になっていて。ターミナルの入口にゲートを設けたり、荷物を受けられる時間になったらトラックドライバーをお呼びする仕組みを作ったりしていました。そうした経験もあって、大規模物流センターなど民間のエリアにおいても各事業者任せにならずにできるといいなと思っています。


小野塚)そう思います。特に空港・港湾周りは荷主やトラック事業者の方々が頑張ってなんとかなるものではなく、インフラサイドの問題を解決する必要があります。なので、空港・港湾側が対応策を打っていくことが重要ですね。

シームレスな物流自動運転を実現するには各セクターでの取り組みが必要

吉村)当社が実際に取り組んでいる高速道路や大規模物流拠点内での自動運転についてお話しさせていただきます。こちらの図(図2)をご覧ください。

(図2)物流のモノの流れと自動運転技術の広がりを示した図(当社作成)

吉村)ご覧の通り、公道、物流センター、空港、港など各セクターごとに自動運転導入の取り組み、ルールがバラバラです。ここを整理しなければ、物流におけるシームレスな自動運転の実現には程遠いと思います。例えば、当社が三井不動産様と取り組んでいる物流センター内の自動運転では、自動運転レベル4の車両が物流センター側のシステムと連携し、バース満空情報を元に自動運転車に目的バースの位置を指示して運用する仕組みを目指しています。最近ではIC直結の物流センターなど自動運転車を受け入れやすくする取り組みも加速していますが、既存の物流センターはICから数百メートル~数キロ離れており、これが全国に28,000か所もある。こういった既存施設でも難なく自動運転車を走行させるソリューションが必要だと思います。

吉村)政府はこれまで、RoAD to the L4やデジタルライフラインをはじめとする高速道路におけるトラックの自動運転などに焦点を当てていましたが、最近では「基幹物流拠点の整備に係る関与・支援」などを明文化されています。考えてみれば、当社がデジタルライフライン事業において新東名高速道路での自動運転実証でやってきたようなSA―SAの自動運転が出来たとしても、物流はend-to-end、拠点から拠点に運べて初めて成立するので、最後に物流センター内でぎくしゃくするようでは物流事業者の方には使ってもらえませんよね。自動運転導入のコアである人手不足解消にもつながりにくいですし。これは空港や港湾といった公共エリアにおいても同様で、当社では2025年3月に中部国際空港セントレアでの自動運転実証を実施しており、引き続き未発表のものも含め様々な地域において自動運転を進めています。


小野塚)すばらしいですね。人手不足が最も深刻化しているのはやはり地方です。ドライバーは地方にもいるのですが、都市部に比べると物量が少ないので、10tトラックに10tの荷物が載っているとは限らない。物量が少なくて1tしか運ばないとなると、荷主からすれば1t分の運賃だけ払いたい、となりますよね。ドライバーからすれば、一度にたくさんの荷物を運んで、しっかり運賃を払ってくれるところに行きたいじゃないですか。結果として地方からドライバーがいなくなる。人手不足が進んだ時、荷物を運べなくなるのは地方からだと言われています。

ただそういう背景もあって、共同物流はむしろ地方で先行しています。その典型は北海道ですね。競合同士で共同配送しているところもありますし、企業間の連携促進を目的とした北海道地域フィジカルインターネット懇談会も開催されています。

物流課題解決の一番の切り札は自動運転

吉村)ここまでたくさん議論させて頂きましたが、最後に小野塚さんの考える物流課題解決について、ズバリお伺いできますか。


小野塚)正直申し上げて、自動運転が一番の切り札だと思っています。モーダルシフトという手段もありますが、なかなか厳しいのが実情です。鉄道はそもそもキャパオーバーなのでモーダルシフトしたくても難しいですし、船は増やそうと思えば増やせますが、1000キロを超えるような長距離でないと経済的合理性を担保するのが難しい。もちろん、荷待ち・荷役時間の削減や積載効率向上にも取り組むべきですが、限界があります。積載率はいま平均すると4割程度ですが、じゃあこれを8割にできるかというと結構難しい。何故かというと、例えば関東から東北に行くものと東北から関東に行くものだと、後者の方が圧倒的に少なくて、絶対100%にはならないんです。そうやって考えると、一番はやはり自動運転。そもそも人なしで運べれば、人手不足なんて関係ないですからね。

なので、政策の柱として自動運転を進めていって、いっそのこと日本が世界に先駆けて自動運転大国になっていったら理想だなと私は思います。ダイナミックマッププラットフォームの皆さんがデジタル基盤を作ることで、高速道路に始まり、最終的には一般道や物流センターで、人が乗ってないトラックが動く姿を見たいですね。


吉村)そのような社会を実現できるように頑張ります。本日はありがとうございました。

小野塚 征志

株式会社ローランド・ベルガー パートナー

ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。内閣府、経済産業省、国土交通省の有識者会議にて委員や委員長などを歴任。著書多数。

吉村 修一

ダイナミックマッププラットフォーム株式会社 代表取締役社長CEO

2005年三井物産株式会社に入社。2012年に株式会社産業革新機構(現株式会社INCJ)に入社し、2017年に投資家の立場から当社社外取締役に就任。その後2020年に当社取締役副社長、2021年に当社代表取締役副社長を経て、2022年に当社代表取締役社長CEOに就任。

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