日本発500kmから世界180万kmへ 自動運転とAIを支える高精度3次元データ、10年の挑戦

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日本発500kmから世界180万kmへ 自動運転とAIを支える高精度3次元データ、10年の挑戦

ダイナミックマッププラットフォーム株式会社は、「Modeling the Earth(地球のデジタル化)」をビジョンに、自動運転や先進運転支援システム(ADAS)をはじめ、シミュレーション環境構築、インフラ管理、除雪支援など、幅広い用途に向けて高精度3次元データを提供するディープテック企業です。

当社の高精度3次元データは、緯度・経度・高さの3次元座標情報を持つ点の集まりから成る「高精度3次元点群データ」と、この点群データから自動運転に必要な情報を抽出・生成した「高精度3次元地図データ」に分類されます。これらのデータは、次世代モビリティの安全性・信頼性を支える基盤技術として、国内外で活用が進んでいます。

設立当初、当社はこの高精度3次元地図データが事業として成立するまでの道のりを10年計画として描き、着実に歩みを進めてきました。そして来年2026年度、当社は創業10周年という節目を迎えます。これまでの10年間で積み重ねてきた取り組みの進捗とこの先に描く未来について、当社代表取締役社長CEOの吉村 修一に話を聞きました。

当社代表取締役社長CEO 吉村 修一

“秘伝のタレ”のような基盤データづくり 
10年計画で世界に通用するデータビジネスへ

当社は日本政府によるバックアップのもと、国内自動車メーカー10社等の共同出資により2016年6月13日に設立されました。自動運転社会の実現に不可欠な基盤データを担う企業として、官民一体となって誕生したのが、ダイナミックマッププラットフォーム株式会社です。

当社はディープテック企業として最先端の技術を扱っていますが、その事業の根幹を支える高精度3次元データの生成プロセスは、決して楽なものではありません。MMS(モービルマッピングシステム)という高度な計測機器を搭載した専用車両をひたすら走らせ、地道に現実世界を測り取るという、なんとも泥臭い方法で生成されています。当社は現在、世界26ヶ国で事業を展開していますが、このMMSを日々、世界中で走らせることで、グローバルに通用する高精度3次元データを蓄積してきました。こうした日々の積み重ねこそが、当社の競争力の源泉であり、信頼の礎となっています。

MMS(モービルマッピングシステム)

「我が国の自動運転社会の実現を目指し、高精度3次元地図データをオールジャパンで整備しよう」。そんな国家的な構想のもと、当社の挑戦は始まりました。構想はやがて内閣府のプログラムとなり、国内のすべての自動車メーカー、そして地図・測量分野の有力企業が賛同。こうして当社が設立され、本格的な研究とデータ整備がスタートしました。

もっとも、設立当初から現在の姿が描けていたわけではありません。
「まずは国内の高速道路だけを整備し、役割を終える」。そんな考え方も、当初は現実的な選択肢の一つでした。

しかし、それでは日本国内に閉じたサービスにとどまり、いずれ“ガラパゴス化”してしまう。どうせやるなら、世界を前提にしよう。創業時の2016年、当社は「10年」という期間を地図データ整備の一つの節目として置きました。10年という期限の中で、データを一から整備し、事業モデルを確立し、世界に通用するデータビジネスとして成立させる――そうした覚悟をもって、当社の挑戦は始まったのです。

そもそも、地図づくりは決して簡単な仕事ではありません。
一度整備した瞬間から、現実の世界は変化を始めます。新しい道路ができ、交通規制が変わり、街の姿は少しずつ、しかし確実に更新されていく。地図は「完成した瞬間から劣化が始まる」データなのです。

つまり必要なのは、10年かけて新規データを整備することだけではありません。その間、変化し続ける現実世界に追いつき、更新を止めず、品質を保ち続けながら事業として成立させていくこと。事業開始当初、「地図の仕事は10年かかる。少しずつデータを積み上げながら、同時にきちんと更新し続ける辛抱強さが必要だ。美味しい焼鳥屋の秘伝のタレを作るようなものだ」と言われたことがあり、その言葉を今でもよく覚えています。それは決して現実離れした比喩ではなく、途方もない計画であり、相当な覚悟を要する挑戦でした。

正直に言えば、「本当に10年もかかる」とは、そのときは思っていなかったのですが(笑)。
それでも今振り返ると、この覚悟こそが、今日の当社の基盤をつくってきたのだと実感しています。

そして来年2026年度は、ついにその10年を迎えます。ここで当社グループのデータ整備の変遷を、改めて振り返ってみたいと思います。

500kmから始まった挑戦 
日米並行で進んだ高精度3次元地図データの本格展開

最初の整備は2017年1月。国内の高速道路および自動車専用道路の上下線計500kmをサンプルデータとして出荷しました。規模としては限定的ながらも、社会実装を見据えた実証的な取り組みとして、当社のデータ整備はここから本格的に動き出します。

他方、2019年に当社が買収したUshr Inc.(現・連結子会社Dynamic Map Platform North America, Inc.)では、2017年末の時点で、北米において約18万kmに及ぶ高精度3次元データの整備を完了していました。北米地域は世界で見ても自動運転技術の開発・実装が先行していた地域であり、こうした環境も背景に、Ushr Inc.の高精度3次元地図データはGeneral Motors Company(GM)のハンズフリー運転支援システム「Super Cruise®」に初採用されることとなります。

その後、日本国内においても整備は急速に進展し、2019年3月には国内高速道路・自動車専用道路約3万kmの整備が完了。同年9月には国内で初めて高精度3次元地図データを搭載した自動車(「ProPILOT 2.0」を搭載した日産自動車「スカイライン」)の発売が開始され、当社の高精度3次元地図データが採用されることとなります。 なおUshr Inc.(現・Dynamic Map Platform North America, Inc.)は2019年4月に当社の子会社となり、同年末には北米地域のMotorway、Trunk Roadという上位クラスの道路データの整備が完了していました。日本と北米、両地域での取り組みが並行して進んだことで、当社グループのデータ整備は、グローバルな広がりと実用性を兼ね備えたフェーズへと移行していきました。

2019年末時点のNAデータカバレッジ

広がる道路網、加速する海外展開 
北米から欧州・アジアへ

2021年からは、これまで整備を進めてきた道路に加え、Primary Roadというもう1つ下のクラスのデータ整備が進み、2022年には整備が完了。当社の高精度3次元地図データは、より広範な道路網をカバーする段階へと進化していきます。

あわせて、グローバル展開も加速しました。2021年末には欧州における事業基盤構築のためDynamic Map Platform Europe, GmbHを設立し、欧州のデータ整備もスタートします。さらに2022年10月には韓国での事業展開のためDynamic Map Platform Korea, LLCを設立しました。こうして当社グループは、北米・欧州・アジアへと事業領域を着実に拡大させ、各地域の環境やニーズに対応しながら、高精度3次元データの整備をグローバルに推進する体制を構築することになります。

2022年末時点のNAデータカバレッジ

生活道路クラスへの拡張と中東進出 
世界180万kmまで広がったデータ基盤

2023年からは対象道路をさらに拡張し、Secondary Roadと呼ばれるより生活道路に近いクラスのデータ整備を開始。これにより、当社のデータカバレッジは幹線道路中心のフェーズから、より広範な道路ネットワークへと本格的に広がっていきます。また、中東地域の高精度3次元地図データの開発を目的としたDynamic Map Platform Arabia Ltd.(サウジアラビア)、DYNAMIC MAP PLATFORM DATA – L.L.C (アラブ首長国連邦)も立ち上がります。急速な都市開発と次世代モビリティへの関心が高まる中東市場において、当社の技術とノウハウを活かしたデータ整備を本格的にスタートさせています。

そうしていよいよ世界各国で整備が進んでいき、2026年3月現在、北米全域で約156万km(約97万マイル)以上、グローバルで約180万km(約112万マイル)以上の整備が完了しました。以下、動画にしてみるとカバレッジがどんどん広がっていく様子が分かりますね。

欧州・日本のカバレッジはこちら。

2026年3月現在の欧州・日本におけるカバレッジ

10年計画のその先 
フィジカルAI時代の価値創出を担うデータ基盤へ

そして現在、10周年を目前に控え、計画達成が見えてきました。当初は途方もないように思われていた計画がいよいよ達成されるのだと思うと、代表に立つ身としては胸が熱くなります。

これまで当社は、高精度3次元地図データの整備を最優先課題として位置づけ、継続的かつ集中的な投資を行ってきました。整備の完了に向け、事業としては大きな投資フェーズにあったといえます。そして今後は、この膨大なデータ資産をいかに事業価値へと転換していくかという、新たなフェーズに入ります。これまでに構築してきたデータ基盤を最大限に活用し、売上成長と収益性向上を実現する回収フェーズです。

特に注力していくのがAI領域です。中でもフィジカルAIにおいては、現実世界の挙動や環境、人・モノの動きを正確に理解・再現するため、実運用の中で蓄積された大規模かつ高品質なデータが不可欠となります。シミュレーションや仮想データだけでは代替できないこの領域において、当社が長年にわたり蓄積してきた世界最大級のデータは、他社には容易に模倣できない本質的な競争力です。

フィジカルAIが普及することで、現場の判断や作業はより高度に自動化・最適化され、人はより創造的で付加価値の高い業務に集中できる社会へと移行していきます。当社は、データを起点にフィジカルAIの実装を進めることで、産業や社会の在り方そのものを進化させる役割を担っていきたいと考えています。

今後は自動運転やADASにとどまらず、シミュレーション、インフラ管理、スマートシティなど、より幅広い分野で高精度3次元データの価値を社会実装につなげていきます。データの「量」を整える段階から、「使われ続けるデータ」として進化させる段階へ——当社の事業は新たな成長局面を迎えます。

おわりに

最後までお読みいただきどうもありがとうございます。ダイナミックマッププラットフォームの整備拡大は、地図を「描く」仕事ではありません。世界中の道路を実際に走り、暑さや寒さ、交通事情や天候に向き合いながら、現実の道路そのものをデータとして積み上げていく仕事です。

専用車両での走行は、決して華やかではありません。世界中の道路を何度も走り、わずかな変化を更新し、時には夜間や早朝に作業を行う。そうした一つひとつの積み重ねが、はじめて「使えるデータ」になります。

自動運転やADASは、人の命を預かる技術です。だからこそ当社のデータは、一度整備して終わりではありません。工事、規制、標識の変更など道路は日々変わり続けています。私たちはその変化に追いつくため、世界各地で地道な更新を続けています。

この作業は、外から見れば気の遠くなるような仕事かもしれません。しかし、こうした日々の更新こそが、安全な自動運転・先進運転支援を支える最後の砦だと、私たちは考えています。

整備拡大とは、単にエリアを広げることではありません。「このデータなら任せられる」と言っていただける品質を、世界のどこでも同じ水準で維持し続けること。その覚悟と責任を、ダイナミックマッププラットフォームは引き受けています。

そして、この仕事を可能にしているのは、現場で走り、解析し、確認し続けている社員一人ひとりです。もちろん最先端のAIを駆使して品質を向上させながらデータ生成の効率化に日々取り組んでいます。それでも当社の成長は、派手な一手ではなく、現場で積み重ねられた無数の“正しい仕事”の集積だと、私は思っています。

私たちはこれからも、物理的な世界と真正面から向き合い続けます。時間も手間もかかる仕事ですが、それこそが、安全で信頼される自動運転社会と、自動車に限らずフィジカル空間でAIが活躍するための最短距離だと信じているからです。

私たちのビジョンは「Modeling the Earth」、すなわち地球のデジタル化です。その第一歩となる大きなひとつの目標が、あと少しで達成します。まだ誰も成し遂げていない、日本発スタートアップ企業の挑戦を、ぜひ見守っていただけると幸いです。

監修者情報
吉村 修一

代表取締役社長CEO

吉村 修一

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